<若返り薬(eNAMPT)は本当か>

若返り薬(eNAMPT)は本当か


 若返り薬の研究は始まったばかりなのに、効能だけがマスコミによって宣伝され、共同幻想が渦巻いているのが現状だろう。果たして、eNAMPTと呼ばれる酵素に人間を若返らせる効果はあるのだろうか。

 過去にスーパーマウスと呼ばれる遺伝子改造ネズミがマスコミによって報道され、新陳代謝機能が促進されて、能力が向上し、寿命も延びるのがわかったが、人間への応用はおこなわれていない。遺伝子改造には法的な壁が多いからである。

 今、騒がれているeNAMPTは経口補給するだけで老化を防止出来るとか、若返りが出来るとか、過剰な期待が宣伝されているが、果たして、どこまで効果が期待出来るのだろうか。まだまだ未知数のように思える。

 いくつか論文を読んでみたが、要するに、eNAMPTは果物や種子に多く含まれている物質で、大量に果物や種子を食べれば老化防止に繋がるのだが、人間が摂取出来る量を遥かに超える量を食べなければ効果が無い為に発見出来なかったもののようである。

 そのせいか、eNAMPTを必要以上に摂取しても効果が無く、適量のeNAMPTを摂取し続けなければ効果が現れないものであるようだ。ネズミの実験では1年間で効果が現れたらしいが、人間の必要量がわかっていないだけに、どのくらいの期間摂取すれば、どのくらいの効果が現れるかは未知数のようである。

 eNAMPTは血液中の含有量を調べれば、死亡するまでの時間を測定出来るなど、生物の死と深く関係する物質であるようだが、こちらの発見の方が重要で、自分の死期を精密に測定出来るようになるかもしれない。

 eNAMPTの発見は生物の生と死に関与する物質を発見したという意味では大きな成果かもしれないが、なぜ、果物や種子に含まれている物質なのかを考える必要があるだろうと思う。植物が動物の生と死を支配する物質を生成していると言うのは、人間の寿命が過去に比べて現在では大きく伸びているのと関係があるのかもしれない。

 たとえば、大正時代の平均寿命は50歳ぐらいだったという。今では80~90歳ぐらいになっている。ほぼ2倍の伸びである。老化もやや遅くなっている。大正から令和に至るまでに植物性の食べ物で大きな変化が起こったのが原因なのかもしれないのである。

 最近の長寿社会に貢献したのは、血圧降下剤や副作用が無い薬などの分子設計された薬品製造がコンピュータの普及によって可能になったからだが、老化速度の低下や長寿に影響したのは新薬開発だけなのだろうか。

 eNAMPTの発見は、足下に転がっていて誰も気にしなかった物質が、実は人間の生死を支配していたというものであるようだ。こういう物質はeNAMPTだけではなくて、夥しい数に上るだろうと思うが、老化防止や長寿に影響する物質は今後も発見が続くだろうと思う。

 もっとも、まだ老化のメカニズムが完全にわかっていない時代に、効果があるからという理由だけで乱用して良いのだろうかという疑問もある。1990年以降、分子設計による医薬品開発が進んだ結果、治らないはずの病気が治るようになり、副作用が無くなり、ついには老化防止や若返りにまで到達したと言うのが真実なのだろうが、どうも話がうま過ぎるように思うのである。何か騙されているような気がする。

 少なくとも、eNAMPTの発見によって、従来は不可避と考えられていた高齢化が治療出来る病気の一種に過ぎず、投薬治療によって改善出来る道が切り開かれたようである。老化とは病気だったのだろうか。



                                   <NOBUAKI>