<宇宙での事故を考える>

宇宙での事故を考える


 ソ連が崩壊する少し前に、ソユーズ宇宙船が事故を起こし、カプセル内が真空状態になって、わずか1分ほどの短い時間で宇宙飛行士が全員死亡した時の映像がニュースで放送されたのを覚えている。それは、気圧差で眼球が外に飛び出し、頭蓋骨が破裂して脳が外に飛び出した状態の見るも無残な死体だった。SF映画の宇宙と現実の宇宙では大きな違いがある。宇宙で死ぬのは、地上で死ぬよりも遥かに残酷な死を体験しなければならない。

 今までに宇宙船の事故で死んだ宇宙飛行士は、旧ソ連と米国を合計すると、かなりの数になっている。パラシュートが開かずに地上に激突して、カプセルと共にバラバラに砕け散って死んだ宇宙飛行士もいる。カプセルが空気漏れを起こして、生きたまま真空中で身体が破裂して死んだ宇宙飛行士、打ち上げ途中でスペースシャトルが爆発して、粉々になった破片と共に落下して死んだ宇宙飛行士、同じく、大気圏突入時にスペースシャトルが空中分解して、超音速と超高温の中で生きたまま身体が引き裂かれて、燃え尽きた宇宙飛行士もいる。

 宇宙飛行士が宇宙でどういう死に方をしたかは、映像として公開されるのが少ない為に、我々は宇宙飛行をSF映画で作られた夢のようなものだと錯覚している。

 しかし、実際の宇宙飛行で事故が起こった場合には、骨の欠片1つ地上まで届かない無残な死が待っているのである。宇宙での死は決して綺麗なものでもなければ、安楽な死でもない。地獄と言うのが最も適切な死である。

 真空中に人体が晒されると、気圧差で1平方センチメートルあたりで1kgの力が身体を破裂させる力として加わる。これは、重いダンベル1本が皮膚の1点にぶら下がったぐらいの大きな力であり、1平方メートルでは10tもの力が加わるわけである。この力が眼や耳、鼻、口、肛門などあらゆる部分に加わって、身体中の穴から内臓が飛び出す結果となる。頭蓋骨も内圧を支えることが出来ずに破裂して、脳が外に飛び出してしまう。それまでに1分と時間はかからないのである。

 宇宙服を着ている場合には、純粋酸素を呼吸し、気圧を6分の1まで下げているので、この力も6分の1まで下がるが、身体が破裂することに違いはない。やはり、眼球が飛び出し、頭蓋骨が破裂して死亡する結果となるだろう。宇宙服での人身事故はまだ起こっていないが、ソユーズ宇宙船で起こった宇宙飛行士の身体が破裂した事故と同じ死を迎えるのは間違いないだろう。

 超音速飛行を実現しようとして、飛行実験を繰り返していた時期に、衝撃波によって機体が空中分解する事故が相次いだことがある。この為、機体強度を高め、衝撃波を受けにくい形状に機体設計を変えなければならなかった。超音速機が異常なほど鋭い流線型をしているのは、その為である。

 それでは、スペースシャトルが大気圏再突入で空中分解して、宇宙飛行士が外に放り出された時は、どういう結果になるだろうか。

 もちろん、人間は鋭い流線型をした超音速機のような形をしていないし、強度も遥かに低い生物である。たちまち、人体はバラバラに引き裂かれて飛散してしまうだろう。また、超音速で飛行している為に、摩擦熱も大きなものとなる。当然、外に飛び出した宇宙飛行士はバラバラになって、燃えながら落下して来るわけである。

 コロンビア事故の時に、地上まで落ちて来たのは、宇宙飛行士のヘルメットだけで、それ以外は何も残っていなかったという。骨の欠片1つさえ残らない死を迎えることになるわけである。

 宇宙で事故が起こった時は、こういう残酷な死が待ち受けているのを覚悟して置かなければならないだろう。

 今は宇宙技術の進歩で、有人宇宙飛行のコストが大幅に下がり始めている時期であるが、過去に起こった宇宙船の事故を考えると、同じ事故が今後も繰り返されるのは間違いないのである。

 もちろん、地上で生活して一生を終えても、宇宙に行って一生を終えても同じだと考える人から見れば、宇宙船の事故は大きな問題ではないかもしれない。宇宙を見られれば死んでも良いと、心の中で割り切っている必要があるのだろう。

 航空機でも気圧が急減して乗客の眼球が飛び出す事故はあるそうだし、機体が炎上する事故もたびたび起こっている。宇宙船の事故だけが特別ではないのだろうが、SF映画のお話を鵜呑みにするのはやめて置いた方が良いだろう。



                                   <NOBUAKI>