<戦争と環境>

戦争と環境


 いつの時代も戦争は甚大な被害を地球に与えて来たが、その被害は軍事技術の進歩と共に拡大し、悪化の一途を辿っている。地球上では、どのくらいの戦争被害まで許容されるのだろうか。

 核兵器が使用されなかったとは言っても、湾岸戦争やイラク戦争では大量の劣化ウラン弾と呼ばれる放射性物質を使った砲弾が使用され、放射能汚染によって多くの犠牲者が出ている。核戦争と変わらない被害が生じているわけである。

 このまま原子核物理学を技術的に応用した兵器の開発が進んでいけば、おそらく、SFの世界では常識となっている兵器のいくつかは現実に作られることになるだろう。たとえば、反物質爆弾というものがあるが、これは電気的・磁気的に反対の性質を持つ反陽子や反中性子、陽電子などから反原子を作って、それを通常の原子と衝突させて対消滅させ、全質量をガンマー線や中間子線のエネルギーという形で放出させ、国家を滅亡させるというものである。

 これは夢物語のように考えられているが、現在では誰もが知っている核兵器も昔は夢物語であった。質量分析器という電磁石のお化けのような巨大な装置を使って、ウラン原子を1個ずつ拾って濃縮し、核爆発に必要とされるウラン235を集めるという方法で1年間かかって集め続け、原爆は作られたのであるが、これと同じように、反原子を1個ずつ作って拾い上げ、それを真空の容器内に電磁気力を使って安定的に保存する技術が完成すれば、数年の時間をかけて同じように反物質爆弾が出来ないとは誰も言えないのである。

 SFにはブラックホールを人工的に作り上げて爆弾として使うというアイディアもある。これも今までは夢物語だと言われて来た。しかし、現在では陽子1個ぐらいの大きさのマイクロブラックホールを人工的に作り出すことが可能ではないかと言われ始めている。もちろん、ブラックホールの寿命が非常に短く、10のマイナス数十乗分の1秒という時間で崩壊してしまうので、地球には何も影響が出ないと言われているが、仮に安定したブラックホールを作り出すことに成功すれば、それはあっという間に地球内部にめり込んで行って、3年間ぐらいで地球を飲み込んでしまうと言われている。いや、実際には飲み込む前にブラックホールに落ち込む物質から放出される膨大なエネルギーによって地球が大爆発を起こして吹き飛ぶとも言われている。

 こうした兵器が今後100年、200年という時間では絶対に実現されることがないと保障出来る根拠はない。だが、人間というのは、そこまで馬鹿なのだろうか。地球を吹き飛ばすような爆弾を作らないと安全保障が出来ないと考えるほど愚かなのだろうか。

 パキスタンのような小国が、まるで米ソが冷戦時代に作っていたような兵器を作っているのは、異様な光景である。すでに射程2000km以上の中距離核ミサイルが完成し、射程が1万kmを超える地上発射型巡航ミサイルも完成させている。経済的には決して豊かではない国が超大国と同じ核兵器を持つというのは、かなりの財政負担のはずである。

 破壊力が大きな兵器を持たなければ安全が保障されないという考えが続く限り、最後は地球を破壊する兵器が作られることになるだろう。まさしく、戦争は最大の環境破壊である。

 しかし、本当に破壊と汚染によって環境を破壊する兵器開発の道しか残されていないのだろうか。もしかしたら、ある時期までは、そうであっても、それ以降は環境を破壊しない兵器開発の時代が始まって、戦争が地球を滅ぼすようなことが無くなる時代が来ることはないのだろうか。

 化学兵器や細菌兵器が実戦段階まで開発が進んだ時代があったが、現在では環境への影響が大き過ぎるので使用が禁止され、全廃の方向へ向かっている。それに対して、核兵器が全廃にならないのは、それを上回る兵器開発が成功していないという現実があるからだが、仮に、それが反物質兵器やブラックホール兵器だとすれば、むしろ開発しない方が環境への影響が小さいだろう。

 だが、核兵器よりも大きな破壊力を持ち、しかも環境への影響が非常に少ない兵器が開発出来ることがわかったら、どうなるだろうか。そういう兵器があったら、核兵器のような危険な兵器を持つ必要は無くなり、核兵器全廃が実現するかもしれない。

 そういう兵器は、実は、いくつか考えられているのである。ただ、現在の技術では実現が非常に難しいので現実化していないだけの話である。どういうものかと言えば、環境中のエネルギーを使って破壊をおこなおうというものである。

 たとえば、戦国時代は川に堤防を作って城を水攻めするという、自然の力を使った戦法で戦いに勝つのが戦略であった。同じような方法は現在でも使うことが出来る。自然環境にあるエネルギーを使って破壊を起こし、敵の戦力を失わせるというものである。この戦術では環境汚染が起こらないので深刻な問題が生じにくい。破壊後に放置しても自然の復元力で回復するので被害が長引かないというメリットがある。

 例を言えば、ダムを爆破して下流に洪水を起こし、広範囲の地域を水没させたり、破壊後は農業用水や生活用水の不足を作り出すというものである。太陽発電衛星を使ってマイクロ波を海面に送り、台風の動きをコントロールするというアイディアもあるそうだが、これは桁違いにコストがかかるので実現は難しいだろう。

 このような環境エネルギー兵器とでもいうものが、核兵器を上回る力を持つようになって、核兵器の全廃に繋がるようになるかもしれない。そういう時代が将来実現するとしたら、戦争そのものは無くならないかもしれないが、地球を吹き飛ばして滅亡するシナリオから逃れることが出来るかもしれない。

 環境エネルギー兵器の考え方は、現在の通常兵器や核兵器の考え方とは全く正反対である。現在の兵器は化学エネルギーや核エネルギーを使って超高温を作り出し、破壊を起こすという局所的な熱エネルギー兵器がほとんどである。ところが、環境エネルギー兵器は水の位置エネルギーや気温の僅かな温度差による熱エネルギーなど、低いエネルギーを広範囲に大量に使って破壊を起こすというものである。

 この為、エネルギーの総量は核兵器を遥かに凌ぐ量に達するが、放射能汚染や化学汚染が起こらず、環境への長期的な影響もほとんどない。問題は、現在では、こういう形の破壊を起こす物理理論がまだ解明出来ていないことである。

 もし、将来、こういう自然のエネルギーを誘発して兵器として使う技術が完成したら、戦争は大きく変わるかもしれない。



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