<社会的損失とは何か>

社会的損失とは何か


 現在、様々な形で失業や低賃金労働が増え、社会的な損失が拡大している。雇用が無かったり、十分な賃金を得られないということは、その人が個人的に不幸になるだけではない。社会的な損失も大きいのである。

 例えば、こう考えていただきたい。一人の人間がニートになり、その人が本来働いて稼ぐはずだったGDPが失われるとしよう。そうすると、当然、それは消費に大きく影響することになる。その人が消費するはずだった衣類、自動車、家電製品は売れなくなり、その人が結婚する時に支払うはずだった結婚資金も使われず、その人が支払うはずだった年金や保険金も払われず、税金も支払われず、産業にとって重要な子供の成長に伴う消費活動も失われることになる。もちろん、人口も減り、その人が多くの資質を持った家系の人であるならば、その家系という遺伝子まで失われることになるわけである。

 そして、ニートが急激に増えていけば、こうした破壊活動が急速に進んで、戦争によって貴重な人材が失われていったのと同じことが起こり続けることになるわけである。それは、日本の将来に負の遺産を残すことは間違いないのである。

 ニートというと単に就職活動が下手で失業しているか、病気にかかっている人というイメージを持つ人が多いだろうが、実際はそうではない。有能で真面目な人ほどニートに陥りやすいという傾向があるのである。本来ならば博士号拾得者として学位を持ち、指導的立場にあるはずの人がニートになっている場合もある。天才や秀才ほど、一度失敗を経験するとニートになる危険が大きいのは、別に今だけではない。昔もそういう人がいたのである。もしろ、戦争が始まる前の社会現象と言っても良いほどである。

 なぜ、戦争とニートが関係するかと言えば、実は、昔はニートのように人生に失敗して立直る可能性も失った人達に対しては、国は戦争を起こして戦場に送り込むことで雇用の機会を提供するという荒療治をやっていたからである。戦争には、兵士がいるし、医者もいる、輸送力も必要である。様々な労働力が必要となり、機械や物資が必要なので工場生産も拡大する。

 昔は、こういう戦時経済メカニズムの元で大量の労働力を必要とし、失業していると、軍や軍事産業から呼び出しが来ることがあるほど、労働力が必要とされたわけである。戦後、経済政策が大きく変化し、こうした失業対策は取られなくなった。その為、ニートが大量に出ても、それを消化する雇用が作れないまま放置する状況に陥っているわけである。

 もちろん、今と昔ではまったく状況が違う。現在、仮に戦争が始まっても、工場設備が爆撃で破壊されれば、逆に雇用が減ることもありうる。今の電子製品は非常に精密なので、昔のように人数だけ足りれば生産が出来るというものではない。従って、戦争がニート問題の解決策になるわけではないことを断って置く。

 ただ、米国が最近、テロ対策と称して頻繁に戦争を起こしているのは、雇用対策だというのが通例である。日本も昔は不況になるたびに戦争を起こして雇用を作っていた。米国は今も同じことをやっているということなのである。

 では、日本はどうすればニートや失業者達に雇用の場を作ることが出来るのだろうか。昔だったら、開拓地を作って労働力を投入していただろう。つまり、他国を侵略して植民地化し、そこへの移住を呼びかけるという形で失業者対策をおこなうということである。もちろん、今ではこういうことは許されない。

 しかし、別に侵略戦争をしなくても、開拓地を国内に作ることは出来るはずである。すでに我々はインターネットという開拓地を手にしているし、これを応用して新しい産業を作り出している人も大勢いる。それにも関わらず、ニートが増え続けるのは、明らかに、産業が労働力を吸収するのに失敗しているという現実があるからである。

 システムエンジニアやプログラマーがまだ若いうちに使い捨てにされている現実があり、必ずしも情報産業が雇用に結びつくとは言い切れない。フリーターやパートもまた、十分な技術を持つだけの教育を受けられずに使い捨てになっている場合もある。

 こうした使い捨てを続けていけば、それが結果的には消費の低迷と企業倒産という形で返って来るということがわかっていてやめられないところが、現在の日本の病根であろう。

 現在の高齢者は消費活動が出来る世代である。しかし、30年後の高齢者がそうだとは思えない。現在、ニートやフリーターの世代が高齢者に加わるからである。その頃の高齢者は十分な消費活動が出来ないほど貧しく、子供もなく、高齢者の社会保障が深刻な社会問題としてクローズアップされて来る。もちろん、その頃は年金や国民保険は破綻しているか、破綻同然の状態になっているのは間違いないのである。そして、税金の負担は現在とは比較にならないほど大きくなっているはずである。

 まだ、マスコミが取り上げようとしていないが、現在の日本は明らかに英国病の兆候が出ている。若い世代に希望や熱意がなく、現状が満足されれば、それ以上の努力をしたくないという考え方が広がっている。もちろん、政府が彼らに希望を与える努力をしようとせず、夢ばかりを与えて現実に結びつくことがなかったことが大きい。

 今のままで行けば、破綻はわかっている。だから知恵が必要なのである。政府に必要なのは、情報を隠すことでもなければ、嘘をつくことでもなく、現状を打開する知恵を集めることなのである。



                                   <NOBUAKI>